よくある誤解
| 誤解 | 正解 |
|---|---|
| 深呼吸して「酸素」をたくさん取り入れればいい | 呼吸によって「プラーナ(生命エネルギー)」を活性化させることが大切 |
| 呼吸とは、空気を出し入れすること | 呼吸とは、エネルギーを取り入れ、循環させること |
| 正しい呼吸法を覚えれば整う | 元気を出すための方法としての呼吸法 |
呼吸とは、酸素の交換ではなく “エネルギーの循環” のこと。
深呼吸をしても満たされないのは、プラーナの通り道が滞っているからです。
プラーナヤーマとは何か
「呼吸していますか?」と聞かれて、多くの人が思い浮かべるのは“空気の出し入れ”。
でもヨガにおける呼吸──プラーナヤーマ(Prāṇāyāma)は、それだけではありません。
それは「自分の生命エネルギーをどう扱うか」という、生き方そのものです。
🔹 サンスクリット語の構造
PRANA(生命エネルギー)+ YAMA(制御)
ここで面白いのは、サンスクリット語では頭に A をつけると意味が逆転すること。
つまり、YAMA(制御)→ AYAMA(拡張・自由) になる。
同じ言葉の中に「制御」と「自由」という正反対の性質が共存している──
この“二つの相反するものの調和”こそ、ヨガの本質です。
プラーナとは「元気」のこと
「プラーナ=生命エネルギー」と聞くと、
どこか難しそうで教科書の中の言葉のように思うかもしれません。
でも、もっと身近な存在なんです。
プラーナを「活力(元気)」として感じてみてください。
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高原で深呼吸をすると、自然に息が深くなり、それだけで元気になる。
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ほこりっぽい場所にいると、呼吸が浅くなり、気力も落ちる。
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好きな人と一緒にいると呼吸が深く、苦手な人といると浅くなる。
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怒ったとき呼吸は乱れ、深呼吸すると落ち着きを取り戻す。
──これらはすべて、プラーナの流れ が変化している証拠です。
つまり、プラーナとは “自分の元気を感じる力”。
そしてプラーナヤーマとは、「呼吸を通して、自分を元気にする方法」なんです。
落ち着くためには、まず元気であること。
その順番を、呼吸が思い出させてくれます。
制御と自由──どちらもプラーナヤーマ
呼吸には「整えるための制御」と「感じるための自由」の両方があります。
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ナーディショーダナ(片鼻呼吸)やヴィローマ呼吸 → 呼吸を制御して整える。
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シャヴァーサナや瞑想 → 呼吸を自由にして流れを感じる。
制御も自由も、どちらも呼吸。
入り口は違っても、目的は同じ──自分を元気にすること。
「今の自分に合った呼吸を選べる自由」
それが、ヨガの呼吸の豊かさです。
自分を制御するか、自分を自由にするか
マットの上で起こることは、人生でも起こること。
呼吸を整える練習は、日常で感情や行動を整える練習にもつながっています。
ただし、コントロール=我慢ではありません。
押さえつけることではなく、「よく見て、必要なときに整える」こと。
いつでも自由にできる余裕があるからこそ、我慢でなく落ち着くことができる。
自分を律することも、解き放つことも、どちらも“選べる状態”が理想。
その試行錯誤を、呼吸レベルから積み重ねていく──
それが、ハタヨガの練習です。
呼吸は「知識」ではなく「体験」
ヨガ哲学や語源を知ることも大切ですが、
ヨガを学ぶとは“知識を増やすこと”ではありません。
大切なのは「その言葉の背景を生きること」。
呼吸を通して、身体の内側で何が起きているかを感じ、
「制御と自由」のあいだで、自分の呼吸を確かめていく。
それが、呼吸を“頭の中の知識”から“感覚と経験を伴う知恵”へ変えていく道です。
まるで、絵に描いた餅が、重さや香りをもつ“実物の餅”になるように。
試してみよう|呼吸を“全身の体験”に変える
① 吐く息の再教育

腹筋に力を入れても吐けない人は、内ももを一緒に使ってみましょう。
ブロックをはさむか、反対の手で内ももを軽く押さえながら、
内ももと腹筋の両方を使って吐きます。
これまで弱かった吐く息が、驚くほどしっかり吐けるようになります。
一見関係なさそうな部分にこそ、本当に必要な力が隠れています。
② 吸う息の再教育

腕を広げても吸えない人へ。
実は、最初から胸を開こうとすると、逆に肩が引っかかってしまいます。
いったん肩を少し前に入れてから、腕を広げて吸ってみてください。
肩甲骨が寄り、胸が自然に開き、空気がスッと流れます。
呼吸がしやすくなるだけでなく、
吐く息に合わせて地面を押す力が戻り、
吸う息に合わせて胸が引き上がり、
目に入る光が増えるような感覚があるはずです。
③ 思い込みを外す
「思っていたことの外にあったこと」や「逆のこと」が、実は正解な場合もあります。
思い込みを外して、呼吸に身を委ねたとき、
本当に必要なことが、頭ではなく身体の観察から立ち上がってくる。
その“気づき”こそが、身体と心を静かに活性化してくれます。
動画で体感しよう
👉 【YouTube】プラーナヤーマについて|教科書的でない実践上での話|呼吸の誤解⑤
00:00|オープニング
00:05|プラーナヤーマについて
03:00|吐くことの洗練と全身の活性化について
04:50|吸うことの洗練と全身の活性化について
06:43|まとめ
あなたへの問い
あなたはいま、呼吸を「制御」していますか?
それとも──「自由」にしていますか?
どちらでもいいんです。
あなたが元気を取り戻せるなら、それが“いま必要な呼吸”です。
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・note版|深呼吸をしても満たされないのは、酸素ではなく“プラーナ”が足りないから
・身体の使い方を、誤解から再教育する。──年間noteシリーズのご案内
練習のヒントになる言葉
「正しい呼吸法」よりも、「元気になる呼吸」を。
ヨガの呼吸は、技術ではなく“生きる力”そのものです。